宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』の原作、ジョン・コナリー『失われたものたちの本』読んだよ!
最初はタイトルに使われている、こっちの物語が原作かと思ったんだけど…
映画の中でこの本は、主人公が母から譲り受けた本としてワンシーンに登場するのみ。
この本を読み通して少年は「向き合う」旅に出ることになったから、重要なアイテムなんだけど、映画の元ネタとして使われているわけじゃなく、あくまでも重要な小道具。
元ネタは、こっち!!
小説から映画へ。別の作者による、別の物語として編み直されるってこういうことなのか…!
アニメ化とか漫画化って、原作をそのまま別の媒体に「転写」するもんだとばかり思ってたけど、宮崎駿監督は『失われたものたちの本』を『失われたものたちの本』としてじゃなく、自分の物語として描き直していた。すごいな〜
物語の展開、描かれている場面、登場人物、それぞれ重なるところを、映画でどう表現されてたか思い出しながら読むのもオモシロイ。
もちろん全く別の物語としても、オモシロイ。
ちょっと久々にダークなファンタジーで、夜中に読み終われなくて怖かったけど(笑)
この物語の中心に流れるのは『悪意』。
その悪意のエネルギーが、純粋で善良であるはずだと(一般的に)信じられている子どもたちを通して垣間見えちゃうのがなお恐ろしい。
悪意と、残忍性と、自分本意な愚かさ!
それはニンゲンの持つ「幼さ」なのかもしれない。
吉野源三郎氏の『君たちは』は、主人公が我が身かわいさゆえの選択をしてしまったことに「罪悪感」を抱き、それにどう向き合っていったかってのが大きな転換ポイントになってた。
ジョン・コナリー『失われた』でも、主人公は身のうちに潜む悪意にうっすら気付き、ぼんやりとした「罪悪感」にまとわりつかれていた。
私は性善説派のニンゲンだけど、ニンゲンが本来まっちろちろのピュアハートだとは思ってない。子どもだから善である、と単純な眼差しを向けられないのは、多分私自身の子供時代の心が悪意と狡猾なズルさたっぷりだったから…(笑)
そのダークで仄暗い部分を含めて、自分の内面を「自覚」して、外側に何を求めるのか「決断」する。
それが子どもから大人への切り替えレバーになるんだと思う。
線路はその先分岐して、全く違う世界を描く。いや、世界はそのままこれまで通り、同じような景色がそこに広がってるんだけど。
月やあらぬ春や昔の春ならぬ わが身ひとつはもとの身にして
ってことかな。自分は自分のまま。
景色もその景色のまま。
でもビフォアアフターで世界はまるきり違う。
でもそれは線路みたいにパキッと分岐点がわかりやすいもんじゃなく…
自分でも気付かぬうちに、出会いと経験とを通して「いつの間にか」変わっている。
そしておもちゃの電車みたいに、ループする。
語り口が童話なのに、なかなかグロい『失われた』ストーリー!グリム童話(原作のほう)を楽しめる人なら、オススメ(笑)
なんてったって、グリム童話のオマージュ(?)がたくさん散りばめられてるからね!!!
定番の昔話、マザーグース、子どもならみんな知っているような物語が、想像の世界の中で「ねじくれ」むすびついていく有り様のおもしろさ!
心理学、ユングが好きな人は、子どもの「恐れ」がどう表現されて、どう克服されていくのか…って視点で見てもオモシロイと思うよ。
トラウマや恐怖を克服する、といっちゃ単純だけど、そういうこと。
「物語」、それが自分の中で語り直されてゆく。
自分の内面を「自覚」して、外側に何を求めるのか「決断」する…「幼さ」と向き合い脱皮するプロセスを駆動する装置として、「物語」はずっとニンゲンと共にあったんだろうな。
そして、これからもあるんだと思う。
それにしても、私は、「物語についての物語」が好きなんだなぁ!!!『失われた』は、『果てしない物語』のように、物語について物語る物語だったよ。
物語をテーマにした、お気に入りの物語たち⇓
『失われた』でも、最初と最後に繰り返されること…
物語が語られたがっており、本は読まれたがっているってこと。
彼が住むのは想像の世界、あらゆる物語が始まる世界なのです。
物語はいつでも、読まれたり声に出して話されたりして命を吹き込まれたいと願っています。そうやって物語は、彼らの世界からこちらの世界へとやってくるのです。
物語の世界は、語られることによって存在できるってこと。存在している世界は、語られることによって生み出された物語だってこと。
果てしない物語…
⇓物語の持つチカラについて語る物語
⇓「夢」の世界の物語
⇓夢をネタにあれこれ考えた過去記事
ちなみに『失われた』は夢とか想像の世界が舞台ではあるんだけど、全然ふわふわしちゃいない。
不気味で血生臭い「手応え」がある。
子どもの頃に読んでショッキングだった、ダレン・シャンシリーズを思い出すな!!
勧善懲悪で、主人公はヒーローで、仲間や重要人物は決して死なない…っていう子ども向けの(大人がそう信じて子どものために作っている)物語の外側に触れた、あの頃。
不気味さと残酷さが似てる。
「死」とか「性(『失われた』ではあからさまな描写はないけど、性への関心のほのめかしはある)」とか、「子どもの向け」のお話でタブーとされるテーマが、がっつり出てくるところとか。
怖いけど、怖いほどに目がそらせなくなるのはなんでだろうね!グロさが娯楽として提供されるのは、そんな心理(魅力?)があるからなんだろうな。
エンディングは、カラッと明るいわけじゃないけど、暗いままでもなく。ちゃんと物語は「閉じ」られてて、良かった。
ホラー系の物語ってわざと宙ぶらりんで終わらせて恐怖を煽るじゃん。あぁなってなくて良かった。
面白かった♡でも次は清涼感のある物語でお口直しがしたい…(笑)