ことばのおもしろさ研究所

語学好きな母ちゃんが、子どもの言葉の成長と外国語学習の奥深さ、心に響いた本なんかを記録しているブログ。

地球、太陽、月、海、その他あらゆるものは一つ限りの存在ではなく、無数に存在するのだ

"永遠"と"一度きり"の間にあるのは、かくも小さな違いだ。

 

作者名が金ぴかにデカデカと…

最初見たとき、なんちゃらパワーって新しい造語のビジネス書か、自己啓発系の実用書あたりかと思った。

 

タイトルは『惑う星』、原著は著者名の下にある『BEWILDERMENT』かな。

ぱらぱらとページをめくると落ち着いた雰囲気。どうやら小説らしい。

あらすじもなにもわからないけど、とってもステキな気配がしたから貸出!

 

 

SFかと思いきや。

いや、SFなのかもしれないけど。実在する最新の科学とか装置、社会問題(これはあの人のことかな…って有名人がちょいちょい出てくる)も織り込まれてて。

 

現代版『アルジャーノンに花束を』…

アルジャーノンも辛かったけど……

物語に出てくる少年ロビン、そして彼を見つめる父親の苦しみも辛かった…

 

二人目の小児科医はロビンを"スペクトラム"と診断したがった。

私はその男に、この地球に生きる人は全員がスペクトラムに位置づけられると言いたかった。スペクトラムとはそもそもがそういう意味だ。

私はその男に、生命そのものがスペクトラム障碍だと言いたかった。私たち一人一人が連続的な虹において独自の周波数で振動しているのだ、と。

 

私は医療が息子に役立たない様子を見ながら、馬鹿げた理論を考え出した。

私たちは生命を矯正しようとすることをやめなければならない、と。

息子という小さな宇宙は、私にはとても計り知れない。私たちは一人一人が一つの実験なのだが、実験が何を試しているのかさえ私たちは知らない。

 

といっても、社会不適合の苦しみや災難を語る重くて暗いハナシでは全然なく!!

ロビンの最大の関心事である環境問題、自然や動植物のことがクローズアップされるけども、著者の左翼的理想や思想を押し付ける(よくある)小説でもなく!

 

父親が、宇宙に生命体がいるのか探査する研究者で、息子と一緒にいろんな惑星を想像して話すシーンも楽しい。

 

すぐに「利益」が出るような「役に立つ」学問じゃないと資金が提供されないっていうリアルな問題。

政治的な問題。

親子の距離感っていうすぐ手の届く範囲の問題から、地球の未来にまで意識を拡げないと見えてこない問題。

 

強烈なインパクトや展開じゃないんだけど、「じゃあ私の今生きている地球は、社会は、現実は、どうなっているんだろう?」としみじみ考えてしまう。

 

 

天文学者が主人公だから、いろんな宇宙論、SFで取り上げられる仮説が出てきて楽しい♡

生命体の仮説、惑星のバリエーションの想像も!ロビンと一緒に、ワクワクしながら聞いていられる。

 

 

地球は唯一無二の特別な生命の惑星だってのが「常識」だったけど、科学が、技術が発達して、「生命が存在する可能性がある星」はものすごい桁の数発見されてきた。

 

じゃあなんで、出会うことがないんだろう?

メッセージが届かないんだろう?

 

こんなに無数の生命が、もしかしたら文明が、あるかもしれないのに。

天の川銀河だけでも生物生存可能圏(ハビタブル・ゾーン)に地球のような惑星が九十億。

宇宙には、そういった銀河が2兆。

 

わかりあえない(繋がれない)孤独。

たしかにそこに存在する、とわかっているのに。

 

天文学と子供時代との共通点は多い。

どちらも長大な距離の旅を伴う。

どちらも自分の理解を超えた事実を探求する。

どちらも突拍子もない理論を打ち立て、可能性を無限に増幅させる。

どちらも数週間ごとに鼻を折られる。

どちらも行動の根底にあるのは無知。

どちらも時間という魔法に魅了される。

どちらも永遠に出発点に立っている。

 

とはいえ、地上で起きているすべてのことが彼を変えていた。

昼食時に友達から言われた攻撃的な言葉の一つ一つ、ネットで目にした動画のすべて、夜に読んだすべての物語、私が聞かせた物語の一つ一つ。

 

一人の"ロビン"は存在しない。さまざまな人格が時空の中で繰り広げる万華鏡のような野外劇自体が、"進行中の作品”なのだ。

 

脳のトレーニングで変化していく息子に、距離を感じる父親の葛藤。

自分のお世話の傘下に引き止めておきたい母性的な葛藤とまた違う感じなのかな。

 

みんなこのこと知ってるのかな?

「知ってると思う。大半の人は」

知ってて何もしないのはどうして……?

 

”経済のため”という標準的な答えは狂っていた。私は学校時代になにか大事なことを学び損ねたらしい。いまだに私には何かがわかっていない。

 

私は息子の頭のてっぺんを撫でた。私が指を動かしているその下のどこかに、トレーニングで変質した細胞があった。「どう答えればいいのかわからないよ、ロビン。私も知りたいくらいだ」

 

彼は上を見ずに手を伸ばし、私の手をつかもうとした。

いいよ、パパ。それはパパのせいじゃない。

いや、私にも責任がある、という確信が私にはあった。

 

僕らは単なる実験にすぎない。でしょ?そしてパパがいつも言ってるように、実験で否定的な結果が出たからといって、それは実験が失敗だということにはならない。

「それはそうだ」と私は同意した。「否定的な結果から学ぶことは多い」

 

彼は気力に満ちた様子で、課題を仕上げようと立ち上がった。

心配ないよ、パパ。僕らには解決できないかもしれないけど、きっと地球が答えを出してくれる。

 

最後、父親が息子ロビンと再会するシーンで、少し…救われたかな…悲しいけども。

 

読み終わって思い浮かべたのは『旅人』って詩。

 

『 旅人』

 

美しい景色です

みなさんお優しく

お料理はおいしいし

ベッドはあたたかくて

本当に旅っていいですね

この星に来てよかったです

というわけでもうそろそろ

おいとましようと思って

いるのですがどなたか

船着場をご存知で?

なにしろ生まれて

初めて帰るので

 

 

 

自然の描写、特に星、夜空の描写が好きだったなぁ。

 

まるで手が届きそうなほど輪郭が鮮明な木々の間から、天の川が溢れていた。

黒い河床にきらきらと散らばる無数の砂金。

 

科学ネタ、天文ネタ、親子のストーリーが好きな人、『アルジャーノンに花束を』読んだことある人は、この本きっとオモシロイよ!

 

 

散歩するように本を読む

長田弘氏の短いエッセイ集。

思い出した時にひとつ、またひとつとのんびり読んで…今日最後のページに。

 

 

途中の音楽ネタは、私も音楽ファンならもっと楽しめただろうなぁ。

 

じぶんの憂鬱や悲しみを軽蔑したり、あるいは逆にそれに甘えたりせずに、真にじぶんのものにすることができなくてはいけない。

 

ひとの感情にはよい感情とよくない感情があり、よい感情が上等で、そうした上等な感情をできるだけいっぱいもつことが美徳なのだと考えてやってゆくというふうな生き方は、正直な生き方ではない。

ひとは美徳によって生きない。

 

じぶんがじぶんにもとめる気概によって生きるものだろうからだ。

 

じぶんの好きな歌を好きなようにうたうというただそれだけのことでさえ、それを「芸術」や「商品」としてではなく、みずからの「生き方」としてじぶんに荷おうとするやいなや、それはたちまちにして一つの「たたかい」とならざるをえないのだ

 

kotokotoba.hateblo.jp

 

孤独はいまは、むしろのぞましくないもののようにとらえられやすい。けれども、孤独がもっていたのは、本来はもっとずっと生き生きと積極的な意味だった。

 

この世の在り方の問題をみずから率直なものにするのが孤独。ソローは日記にそう誌している。

ソローにとって、そのような明るい孤独をくれるものだったのは、散歩だった。

 

『私の好きな孤独』は、ウォールデンのソローの後姿を絶えず想い起こしながら、ただしソローとは逆に、日々の付きあい、なりわいの内にひそむ明るい孤独と静けさのなかへみずから入ってゆく、エッセー=散歩(Walk)の書として書かれた。

全ての失われしものと、全ての見つかりしもののこと

宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』の原作、ジョン・コナリー『失われたものたちの本』読んだよ!

 

 

最初はタイトルに使われている、こっちの物語が原作かと思ったんだけど…

映画の中でこの本は、主人公が母から譲り受けた本としてワンシーンに登場するのみ。

この本を読み通して少年は「向き合う」旅に出ることになったから、重要なアイテムなんだけど、映画の元ネタとして使われているわけじゃなく、あくまでも重要な小道具。

 

元ネタは、こっち!!

小説から映画へ。別の作者による、別の物語として編み直されるってこういうことなのか…!

アニメ化とか漫画化って、原作をそのまま別の媒体に「転写」するもんだとばかり思ってたけど、宮崎駿監督は『失われたものたちの本』を『失われたものたちの本』としてじゃなく、自分の物語として描き直していた。すごいな〜

 

物語の展開、描かれている場面、登場人物、それぞれ重なるところを、映画でどう表現されてたか思い出しながら読むのもオモシロイ。

 

もちろん全く別の物語としても、オモシロイ。

ちょっと久々にダークなファンタジーで、夜中に読み終われなくて怖かったけど(笑)

 

この物語の中心に流れるのは『悪意』。

その悪意のエネルギーが、純粋で善良であるはずだと(一般的に)信じられている子どもたちを通して垣間見えちゃうのがなお恐ろしい。

 

悪意と、残忍性と、自分本意な愚かさ!

それはニンゲンの持つ「幼さ」なのかもしれない。

 

吉野源三郎氏の『君たちは』は、主人公が我が身かわいさゆえの選択をしてしまったことに「罪悪感」を抱き、それにどう向き合っていったかってのが大きな転換ポイントになってた。

ジョン・コナリー『失われた』でも、主人公は身のうちに潜む悪意にうっすら気付き、ぼんやりとした「罪悪感」にまとわりつかれていた。

 

 

私は性善説派のニンゲンだけど、ニンゲンが本来まっちろちろのピュアハートだとは思ってない。子どもだから善である、と単純な眼差しを向けられないのは、多分私自身の子供時代の心が悪意と狡猾なズルさたっぷりだったから…(笑)

 

そのダークで仄暗い部分を含めて、自分の内面を「自覚」して、外側に何を求めるのか「決断」する。

それが子どもから大人への切り替えレバーになるんだと思う。

 

線路はその先分岐して、全く違う世界を描く。いや、世界はそのままこれまで通り、同じような景色がそこに広がってるんだけど。

 

月やあらぬ春や昔の春ならぬ わが身ひとつはもとの身にして

 

ってことかな。自分は自分のまま。

景色もその景色のまま。

でもビフォアアフターで世界はまるきり違う。

 

でもそれは線路みたいにパキッと分岐点がわかりやすいもんじゃなく…

自分でも気付かぬうちに、出会いと経験とを通して「いつの間にか」変わっている。

そしておもちゃの電車みたいに、ループする。

 

 

語り口が童話なのに、なかなかグロい『失われた』ストーリー!グリム童話(原作のほう)を楽しめる人なら、オススメ(笑)

 

なんてったって、グリム童話のオマージュ(?)がたくさん散りばめられてるからね!!!

定番の昔話、マザーグース、子どもならみんな知っているような物語が、想像の世界の中で「ねじくれ」むすびついていく有り様のおもしろさ!

 

心理学、ユングが好きな人は、子どもの「恐れ」がどう表現されて、どう克服されていくのか…って視点で見てもオモシロイと思うよ。

トラウマや恐怖を克服する、といっちゃ単純だけど、そういうこと。

 

「物語」、それが自分の中で語り直されてゆく。

自分の内面を「自覚」して、外側に何を求めるのか「決断」する…「幼さ」と向き合い脱皮するプロセスを駆動する装置として、「物語」はずっとニンゲンと共にあったんだろうな。

そして、これからもあるんだと思う。

 

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それにしても、私は、「物語についての物語」が好きなんだなぁ!!!『失われた』は、『果てしない物語』のように、物語について物語る物語だったよ。

 

 

物語をテーマにした、お気に入りの物語たち⇓

『失われた』でも、最初と最後に繰り返されること…

物語が語られたがっており、本は読まれたがっているってこと。

 

彼が住むのは想像の世界、あらゆる物語が始まる世界なのです。

物語はいつでも、読まれたり声に出して話されたりして命を吹き込まれたいと願っています。そうやって物語は、彼らの世界からこちらの世界へとやってくるのです。

 

物語の世界は、語られることによって存在できるってこと。存在している世界は、語られることによって生み出された物語だってこと。

果てしない物語…

 

⇓物語の持つチカラについて語る物語

 

⇓「夢」の世界の物語

 

⇓夢をネタにあれこれ考えた過去記事

starship.hateblo.jp

 

ちなみに『失われた』は夢とか想像の世界が舞台ではあるんだけど、全然ふわふわしちゃいない。

不気味で血生臭い「手応え」がある。

 

子どもの頃に読んでショッキングだった、ダレン・シャンシリーズを思い出すな!!

 

勧善懲悪で、主人公はヒーローで、仲間や重要人物は決して死なない…っていう子ども向けの(大人がそう信じて子どものために作っている)物語の外側に触れた、あの頃。

 

不気味さと残酷さが似てる。

 

「死」とか「性(『失われた』ではあからさまな描写はないけど、性への関心のほのめかしはある)」とか、「子どもの向け」のお話でタブーとされるテーマが、がっつり出てくるところとか。

 

 

怖いけど、怖いほどに目がそらせなくなるのはなんでだろうね!グロさが娯楽として提供されるのは、そんな心理(魅力?)があるからなんだろうな。

 

 

エンディングは、カラッと明るいわけじゃないけど、暗いままでもなく。ちゃんと物語は「閉じ」られてて、良かった。

 

ホラー系の物語ってわざと宙ぶらりんで終わらせて恐怖を煽るじゃん。あぁなってなくて良かった。

 

面白かった♡でも次は清涼感のある物語でお口直しがしたい…(笑)