子育て・知育・脳に関する本を読むときは、データの新しさに気を付けよう。結構変化が目まぐるしいから、ひとつふたつ上の世代の「ヨキ事」が「有害」だと証明されてしまった例はいくつもある。
今週読んだ本は、ボリューミーな脳科学系の育児本。2020年1月出版の、フレッシュな一冊!
最近の本の邦題・・・どれも似たり寄ったりで、キライだ!(笑) キャッチーなタイトルにせねばってのは、わかるんだけど。原題はBrain Rulesだったかな。
胎教は本当に必要か
この本を手に取る人は「イイ教育」に関心の高い人だから、きっと衝撃を受けるであろう最初の「事実」。モーツァルトやら、胎教、知育玩具、DVDの類に関しては・・・基本、インチキだってこと。
妊娠中の胎児の環境にとって最高なのはできるだけ刺激が少ないこと。1分間に50万個(1秒間に8000個!!!)の神経細胞をつくるので忙しいのに、いらんお世話で邪魔しないでってこと。つわりでお母さんがぐったりしてしまうのは、刺激を減らす環境を促すためなんじゃないか?って説もある。
妊娠中のお母さんが意識すべきこと
栄養、運動、ストレス、これに尽きる。本書では脳の発達に必要不可欠な、妊娠中摂取すべき栄養素も出てます。くりかえし「いい塩梅」がダイジだよ、と書かれてるのは・・・真面目なお母さんが有害なレベルまで張り切っちゃうパターンが多いからだろうか?
そして、他の育児本にあまり出てないけどかなりのページ数を割いて書かれているのが夫婦関係のこと。夫婦喧嘩の4つの原因(睡眠不足、社会的孤立、仕事量の不平等感、抑うつ状態)と、どういうストレスがどんなふうに有害で、どうやって対処すればいいのか、もしっかりと書かれてます。
結婚して、妊娠、出産すると、友達付き合いが後回しになるのが「普通」なんだけど・・・本当はこの期間だからこそ友達、外の人間関係がダイジなんだよ!
栄養や摂取する食べ物に関しては、胎児の反応はかーなーり敏感。この本にはおすすめ栄養素くらいしか書いてないけど、薬やアルコールの影響力のデカさも知っておいた方がイイと思う。
食べ物や添加物は、気にしすぎると日本での生活は大変だから、神経質な人は逆に調べないほうがいいのかな?(笑)
赤ちゃんのためにすべきこと、すべきでないこと
ここでも前提として「いい塩梅」を探りなさい、ってのが注意点。 全体にとっておおむねヨシ、ってことと、その人に合うかどうかってのは、全く全く別物だってこと!
ひたすらやりゃいいってもんでも、やらなかったらオシマイだーってわけでもない。ここで挙げられる4つのto do(やるべきこと)リストはこちら。
(1)母乳で育てる
(2)言葉がけをする
(3)遊び方を教える
(4)成果ではなく努力を誉める
母乳、言語、知育あそび、褒める子育て・・・どれも言葉(イメージ)だけが先行して「おいおい!!!」って場面、よく見るテーマなんじゃないかな。
WHAT(なにを)HOW(どうやってするのか)だけじゃなくて、WHY(どういう理由で)って部分、忘れないようにしたい。
これは英語の勉強方法について書いた記事で使った図だけど、言いたいことは一緒。
母乳はいいこといっぱいぱい
母乳育児もいろんな流派(?)があるけど、せっかくだからエビデンス(現段階で仕組みがハッキリしている根拠)があるものを頭に入れておきたい。
がちがちに「科学的根拠は!」とは「論文は!」とか、そんなんは好きな人だけすればいいとは思うけど。上のウェブサイトは分かりやすいし、事例もたくさんあっておすすめ。
私も母乳に関して「え?」「なんでなん?」って思うこと色々あったから、たくさん参考にさせてもらった。
母乳に関する内容に絞った書籍も出版されたらしい。
言葉がけは脳の発達を促す
親の話しかけるコトバの豊かさが、子どもの賢さに大いに関係する、ってのは別に驚くことでもない。
でも、シャワーのように浴びせかけることを推奨しているわけでもない。マシンガンとーくせよ、ってことじゃ、ない!!!
「話しかける」ことに一生懸命になって「聞いて」あげること忘れてないかい?と思うわけです。言葉のやり取りってのは、一方通行じゃ成立しないから。
例え相手がまだ喋らない赤ちゃんであっても、一方的に言葉をかけるだけではない「間」のあるやり取り、相手の意思をくみ取ろうとする姿勢を示してあげたい。母親は最初のコミュニケーションのロールモデルだから。
遊び方を教える
「はじめに」から一貫して述べられる、知育系おもちゃや教材への鋭いコメント。教育効果を期待した(親の期待した遊び方、正解の決まっている)おもちゃなんかより、それが入ってた空き箱のほうがずっとずっと子どもの脳の発達に効果的ですよ、と。
「遊び」は賢さ、人間力、将来の幸福度を左右する重要な要素。オープンエンドの遊びであること、それに没頭できる安心できる環境、自由があること。
「遊び」と「賢さ」に関して書いてある本だったら、この本がおっもしろい!!
1996年発行の脳科学者から見た子育て本『よみがえれ思考力』でも、「知育オモチャ一生懸命頭を働かせているのは親のほう」と皮肉が書かれている。
この主張はこんなに昔から言われているのに、「脳を発達させよう」「刺激を与えよう」という部分ばっかり強調されてママたちの間で「知育おもちゃ」や「教材」が人気になってるのは、なんでなんだろう???
「ほめる」落とし穴
自己肯定感、自己効力感のポジティブパワーは強い。ただ、褒めポイントに気を付けないと「失敗を恐れて上辺だけでごまかす」クセをつけてしまう。
こういう実践的ポイントは、現役保育士てぃ先生のアドバイスがと~っても楽しくってお役立ち!
賢さの大前提=安心できる環境
脳のイッチバンの役割は「命を守ること」生き延びること。学ぶのはその次。コワイ!不快!不安!なとき、そこに一生懸命神経をつかうわけで、学びのための複雑な働きまでできない。
学びってのは変化していくプロセスであって、特に脳の発達ってのは長~いスパンで成長していくもんだから、そのつもりでいること。
先取を焦ってその段階に合わない要求、期待をされることは「その場でわかったふりをしてごまかす」スキルに磨きをかけるだけに・・・なんてことも。そういう子ども、実例として見た。お母さんは意識高い系で「うちの子のレベルに合ってない」と教室のこと心配していたけど、実際その子はちょっと角度が変わると「それは習ってない」といって思考停止してしまうし、他の子を見下すイヤな性格だった(笑)
私も「わからない」ことにコンプレックスが強くて、自分の自意識を守るために自分の出来ていることをできない人に対して見下したような態度をとってしまっていたかもしれない。(今は、少しマシなんじゃないかな。。。と願う)
そうすると、なにがまずいかって、人に好かれないこと。
人間の幸福感を左右するのは人間関係
良好な人間関係を築ける人間は、幸福度が高い。最低限の衣食住の基盤が整っていて、安全な生活環境であれば、収入金額は幸福度を高めることに貢献しない。
「我が子に幸せになってほしい」と願うなら、良好な人間関係をつくる方法を教えてあげよう。夫婦という人間関係が、最初のお手本になっちゃうってきくと「うー・・・」ってなる人が多いと思うんだけど(笑)
ここでもまた注意したいのが、良好な人間関係は「人に合わせて波風立てない」ことじゃない!!!ってこと。むしろ逆のイメージが必要かも。
あと、明るい=性格がイイ=人間関係のために明るい性格になれ・・・って図式も危険な方向に走りがち。
この本では良好な人間関係を築く手法のうち最も信頼がおけるものを二つ紹介しているんだけど、それが感情のコントロールと共感。
感情のコントロール
感情の力強さ、受け止め方はこの本がおもしろかったよ。
ここで四角四面な科学も、まあるい「心」にいきついてしまったのが面白い展開だな~~と思う。
感情のコントロールの第一歩は、感情に気付くこと。感情に気付くためには、静かに内観できる時間が欲しい。セルフ・モニタリング能力。
そして客観的に見つめた自分の感情を、言語化できるかどうか、が次の一歩。言語能力が賢さ、そして幸福度に欠かせない要素ってのは、ここからも説明できる。
「語彙」 はペーパーテストに応える裏表の単語リストじゃない。言語化を助ける素材であって、なにをどう言語化するのか、がそのままアイデンティティでもある。
「自制心」といえば、マシュマロ実験。我慢できるかどうかが将来の成功につながるダイジな能力なのだ、って意味で引用されるやつ。これもクッキーの例で出ていたけど、ここにもちょっと落とし穴。
マシュマロ1個我慢出来たら、あとで2個あげるね。
そういわれて我慢できるのは、自制心だけじゃなくて「信頼関係」「安心できる(切羽詰まっていない)生活環境」がまず無いとオハナシになりません、ってこと。
感情のコントロールって、むずかしいよね~。
出来る人、分かってる人⇒分からない人(子ども)に教えるって構図じゃなくて、一緒に学びながら(失敗しながら)地味に地道に訓練していかないといけないんだと思う。
まずは感情を否定しない(感情にイイもワルイもない)こと。気持ち(情動)ってのはコントロールできない。でもそこからどういう行動を選択るのか、はコントロール方法を学べる。
共感の力
実践編になるこの本でも、「共感」の力強さはもちろん書いてある。共感、心の波長を相手に合わせる、動かす、感動する。
感動なんて、個人的な内的なモノでしょう?と思われがちだけど、感動のパワー侮るなかれ。何十年も何百年も時を隔てても人を感動させる文学作品や絵画、音楽、芸術作品に限らず、そういったものは、ひとりの感動から出発してるんだから。ポジティブな感動だけじゃなくて、ネガティブな感動ももちろんあったろうけど。
感動は感染する。感動は人を動かすパワーがある。
これは↓の過去記事で書いたこと。
共感力をたかめるために母親が出来ること、それは共感を示すこと。だから一方的な言葉のシャワーじゃ△なんだよね。聞く耳を持つ姿勢も、お手本として見せてあげないと。
「賢さ」と「幸福度」に影響を与える遺伝子
もって生まれた性質50%、環境50%と聞くと捉え方は人それぞれだろうけど、ここでも本書では触れられていないダイジなことを挟み込みたい。
これね。タイトルのまんま。
あと、「気質」と表現される個々人が持ち合わせているベースとなる性質について。これも「固定観念」で捉えるとヨクナイ方向に突っ走りやすい。例えば血液型とかね・・・・(私は血液型とか占いとかに冷めた反応を示しちゃうツマラナイ人間です)
遺伝子はスイッチのオン・オフが割と柔軟に(望む望まないに関係なく)切り替わっちゃうってことと、気質はそれで性格が決まるわけじゃないってこと。性格は全く別物だから。
しつけに関してのアドバイス
最後は「道徳心(モラル)=善悪の判断」ができるようになるために親がなにを提供できるかって内容。
ポイントは、こういう判断力は時間をかけて、失敗や経験を通して学ぶもの。今この瞬間にできてなくても、今の経験が将来できるようになるために必要なステップだと思うことダイジ。
具体的な方法論、しつけのアドバイスは「罰を与える」「タイムアウト」を「効果的」として紹介しているあたり、ちょっと薄っぺらいかなぁ。
理論⇒実践でオススメする「しつけ」の本は、こっち。
子どもの脳を伸ばす「しつけ」 ~怒る前に何をするか--「考える子」が育つ親の行動パターン~
- 作者:ダニエル・J・シーゲル,ティナ・ペイン・ブライソン
- 発売日: 2016/04/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
最初の原則に戻るけど脳は危機感を感じたらそっちに全神経を集中させるから、「学び」にはなりませんよ、ってこと。全力で回避する、って意味では「効果的」なんだろうけど、それだけだと「賢く」はなれません。
コミュニケーション×コトバと身体を結びつけるセンス
これからやろうとしていることの「意義」を後押ししてもらった一冊でした!!まさに、賢い子に育てるエッセンスがぎゅ~~~~っと詰まった教室じゃないか!先輩たちと巣立っていった子どもたちを見ててそう思う!